https://leica-camera.com/ja-JP/stories/akihiko-nagumo-sl2-s-lens-of-tokyo
2020年12月12日、久々の個展がスタートする。しかも写真展としては異例とも言えるロングラン、2021年4月3日まで、さらに東京、大阪同時開催だ。
2020年はいい意味でも悪い意味でも忘れらない年になる。2019年に企画し、春先に渡航を予定していた海外ロケが新型コロナウィルスの影響で国内に変更。それはそれで日本の世界遺産に目を向け、しかも人がいないのでパーフェクトな状態で対峙できたのはよかったが、練り上げた海外プランが水泡に帰したのは悔しかった。
春先の日本の桜は変わらず美しかったが、撮影が終わり花が散っていくと寂しい時間が待っていた。撮影がぱったりなくなり時間ばかりすぎる日々、友人との間も疎遠になり、心にぼっこり穴が開いたような6.7.8月。
何をしていたのか本当に覚えていない、心に血の通わない3ヶ月だった。
9月、この写真展の元になる仕事を頂いた時、全てを脱ぎ捨て、新しい方向に舵をきるつもりで気持ちを創り直した。失ったものは必要ないもの、持っていないものは作ればいい。そう思った。撮影チームも新しいメンバーで構成した。
そういう覚悟の全力は、しばらく出せていなかったかもしれない。
ライカの新製品、それを使って作品を作る、それが世界に羽ばたいて行く。後ろ髪を引かれている場合ではなかった。フォトグラファーになって最も嬉しいオファーだったかもしれない。東京に縛られながらもその撮影の先には世界が見えたのだ。
今東京を撮るのは必然だと感じた。
世界がこういう状況にあって、それでもみんな生きて行く。
そんな中で写真家ができることはその文化の担い手として母国に焦点を当て、芸術することだ。日本人である前に地球人なんだという感覚で世界中を撮り歩いてきたが、今改めてその足元である東京の魅力を表現する。
世界には美しい場所があって、いつかここに来てこの風景に自分の肌で触れて見たいとか、ここで自分も写真を撮ったり、思い出を作ってみたいとか、そんな風に想いをつのることも人が生きる希望の一つになって行くんじゃないかと感じた。それはまさに自分の実体験から生まれた意識だった。
東京の新しい原風景を作る。それを今回の目的にする。
撮影の中心地となったレインボーブリッジの遊歩道、ここには何回かよっただろうか。人が作った巨大建造物、空と海に挟まれた空間は人がどうやって地球上で生きているのかを感じさせる風が吹いている。毎回違う空と海の表情、風の匂い、気持ちがリセットされ、毎回新たな気持ちでシャッターを切った。
厩橋は自分がフォトグラファーになってゆく過程を全て知っている橋、橋の向こうには修行を積んだスタジオがある。この橋を渡り続けなければ今の自分はなかった。11月にこの橋から見える薄暮の三日月が美しいのを僕は知っている、世界中の人に見せたいぐらい、それは美しいのだ。
東京タワーの暖かい橙色は最もシンボリックな東京の色だ、それは懐かしくもあり、現存しているものであり、見上げるものでもあり、僕の愛車にも美しく映り込む。
東京のティピカルな色彩をみずからが選んだキャンパスに描く、自分の東京が出来上がって行く。
世界に平穏が戻った時、たくさんの人がここに来て自分の東京を心に刻み、人生の彩りを作って欲しいと願うのだ。
この作品を制作していた9月から11月の3ヶ月、それは写真家として全力を尽くせる幸せな時間だったと思う。それで失ったことの哀しみが全て癒える訳ではないが、この作品が僕にも生きて行く希望になったことは間違いない。
-恋図-
それは、素直にLensに気持ちを注ぎ込んで映し出される想いの記憶である。恋をした時間に対して心の真ん中でシャッターを切る、言葉の代わりに、文字の代わりにシャッターを切るのだ。それは恋文ならぬ、恋図なのだ。
そんな風に撮影したものを作品として発表できることを写真家として幸せに思う。
2020年12月18日 南雲 暁彦
南雲暁彦写真展 概要
タイトル: Lens of Tokyo -東京恋図-
会 期: 2020年12月12日(土) – 2021年4月3日(土)
会 場:
◇ライカプロフェッショナルストア東京
住所: 東京都中央区銀座6-4-1 東海堂銀座ビル2F Tel. 03-6215-7074
営業時間: 11時~19時 日・月定休
◇ライカ大丸心斎橋店
住所: 大阪市中央区心斎橋筋1-7-1 大丸心斎橋店 本館6F Tel. 06-4256-1661
営業時間: 10時~20時