真空管のアンプって、、気になってるけど、どうなの?って思ってる人が多いと思う。僕もそんな一人だった。
そのビジュアルに惹かれて真空管アンプを導入してから5年ぐらい経っただろうか、ほとんど知識のないままに球(真空管の事)を選び、半導体のアンプと比較したり被写体として撮影したりしてそれなりに楽しんできたのだが、もう少し球の事を知りたくなって一冊の本を読んでみた。その上で、僕の真空管アンプについてのスタンスを話そうと思う。
読んだのは大橋慎の真空管・オーディオ本当のはなし (立東舎)という本だが、これもまあ、発行が新しかったのが最大の理由で、この筆者のことなどなにも知らずにジャケ買い的にポチッと買ってみたものだ。オーディオの話というのは行き過ぎるとオカルト的なものになる事が多く、まず最初にすべて信じてはいけない(笑)と思って読んだり聞いたりする必要がある。耳で楽しむ趣味ならば自分の耳だけ信じればいいのである。またこの本、アマゾンのレビューで詳しい人にボコボコに叩かれている、、レビューによると技術的な部分もかなり間違いだらけだそうだ、、、まあ、ほうっておこう。
知りたかったのは、今自分が使っているアンプは一体どういうものなのか。またチョイチョイョ聞く真空管用語(シングルだのプッシュプルだの三極管だの)、今どんなことが真空管の魅力として語られているのか。というような事。
読む前から知っていた事として、真空管アンプとは音の信号を真空管を使って増幅しスピーカーに送るアンプだ、その真空管が色々とあって各々特性が違い、それが音の違いになって現れるので趣味性が高い。ぐらいのことで、まあ、それは間違いではないと思う。
とりあえず一冊読むと、本当にベーシックな真空管やアンプの種類の説明(これは良い)。と、使っている人が、そう思いたくなる少し説得力を感じる部分(真空管てこうだからイイみたいな)と、それはなんとも聴いてみないと文章を信じちゃいけないよねみたいな真空管アンプの違いによる音の違いを表す抽象的な表現(音の奥行きとか空気感とか)の話がおりまざる。
まず知りたかったベーシックな部分は非常にクリアになり助かった。僕のアンプ(TriodeのTRV-A300SER /PSAVANE WE300B仕様)は三極管の300Bという真空管を出力管にしたA級シングルアンプ、というモノで、もっともベーシックにしてまた最後にたどり着く類のものらしい。まあ、良かったみたいだ。実際気に入っている。
シングルアンプというのは1本の真空管で1本のスピーカーを鳴らしている、ということだ。これに対してプッシュプルアンプというのがあって、これは2本の真空管で1本のスピーカーを鳴らしている。シングルアンプはスピーカーを鳴らす力は弱いが真空管の特性が出やすい(倍音が多く発生するため耳に心地が良いとか、(これも怪しいのだが))プッシュプルは鳴らす力は強くはっきりとした音が出るが、音が平板だ、ぐらいまでが定番の意見のようだ。
これ以上の特性の話はもう、オカルトの領域なのであんまり書きたくない、(笑)聞く人次第だ。
僕がなぜこのアンプを買ったのかというと単純にこの300Bという大きな真空管の形がいいと思ったからだ。しかもわざわざ高いPSVANEのWE300Bに換装したのはガラスの仕上がりが良く(薄い)球にメーカーのロゴが入っていないので撮影向きだったから、という真空管マニアに怒られそうな理由であった。
まあ、オーディオ的にも結果オーライというかこの300Bという玉は真空管アンプの王道中の王道で、しかもこのPSVANEのWE300Bというのは今や伝説となって高値で取引きされているアメリカのWestern Electric社の300Bを忠実に再現した現代のリファレンス球であった。
実際音は聴いてみてどうなのよって話だが、うちにある半導体のアンプ(Luxman L505s)と比べると、角が取れていて聴きやすい、疲れないかなあ。いや悪くないっすよ、という感じ。これも主観に過ぎないが。そうだなエビアンとボルビックぐらいの違いかな。Luxmanのアンプも半導体の中では柔らかい(ラックストーンと言われている)ので差がそれほどないのかなあとも思うけど。
はっきりしているのは、真空管アンプのステレオタイプとして浸透している「温かみと滲みのあるほんわかしたレトロな感じの音、」ではない。ちゃんと聞こえる(笑)それなりのスピーカーを鳴らすパワーは十分にあるし、瑞々しく、解像度もちゃんとある。同じクラスのA級動作の半導体アンプと聞き比べして、誰が聴いてもこっちが真空管だってわかるかと言えばわからない。。と思う。(耳が肥えてるマニアはわかるかもしれないが)けして古臭い音ではない。
つまり、半導体に対して、そんなに目に見えるような違いはない。カメラでいうフィルムとデジタルの違いより全然違わない。目で見えるものと耳で聞くものの情報量の差もあるけど、ブラインドテストというオーディオ界では禁断のテストをやってしまうと、結構困ると思う。。どっちでも良くない、みたいな。(素人的にですよ、あくまで)言い直せばどっちも良い音で鳴る。あとは好みでしかない。
さておき、この本を読み進めていくとだんだん抽象的な表現が増えていき、読み物としては楽しいがこの解釈は読む側に任せるしかないという領域に入る。球をどんどん変えて聴き比べ、感想を言い合うのだが。。読んでる側としては聴いてないからわからない、としか言えない。これをそうなんだ、と信じるのもどうかと思えてくる。
対談のページでバイオリニストの渡辺玲子さんが出てきて、自分のアルバムを聴いたりするのだが、球の違いによる音の印象を聞かれてそれを必死に表現しているようでちょっと苦しい感じもする、さすがに耳はいいと思うし球の違いは聞き取れるのだろうが、本人的には「こういう事にここまでこだわる意味」を感じているように思えない、そして筆者がストラディバリウスとかガルネリの違いとアンプの真空管による違いを同列に語っているあたりにも苦しさを感じざるを得ない、、、アンプだからねえ、、。自分でも少しバイオリンを弾いていた身としては、そこちょっとズレてる。。と思うし。そこにオーディオの寂しさがある。いろんな意味でライブには勝てない。まあでそれを言ってしまうと元も子もないのでさておき、
オーディオ的な音の違いの表現って抽象的すぎて困る。。のではないだろうか。でも「先ほどより奥行きが出ましたね、」とか言われるとつい「そうですね」とか言ってしまいがちな。。「え、この違いが分からないんですか恐怖症」みたいなところがあって、それが怪しさを生み、素人との壁にもなっている気がする。
まあでもだからこういう本物の人を呼んできて話をさせるというリアリティの持たせ方ををしたかったんだろうなと思う。が、、それはそれで。。。芸能人格付けランキングでもやってみたら良いんじゃないだろか。KT88真空管のアンプとKT150真空管のアンプ、どっちがどっち!みたいな。結構はずれるんじゃないだろうか。まあそれでも違いのわかる男たちがこのマニアックな世界を支えているのであろう。
何かすごくオーディオを否定しているようだが、僕も一応オーディオファンの一人である。そこまで微妙な違いがわかるって言い切れませんけどね。もちろんアンプにせよスピーカーにせよ機材による音の違いは生じる、それは間違いない。とだけは言っておこう。自分なりにオーディオを楽しんでいる。ただ後ほど話すが、音だけの話でオーディオを楽しんでいるわけではない。
この本では最後にカメラマンの平間至さんが出てきて対談するのだが、そこはちょっと納得できるというか、同業者的になのか、スタンスは感じ取れた気がする。自分がいいと思う空間を作れればいいのだ。
さておき、僕はここで真空管の音の素晴らしさや奥深さを語る気も知識もない。
じゃあなんなのか、というと僕が思う真空管アンプの魅力は、「そのスタイル」にある。身の回りに置くものとして形が面白く、魅力的で、ちょと暗くすると柔らかく光っているのが見え、音もしっかりでる。しかも半導体アンプよりプラシーボ効果は5割増しといったところか(めっちゃ怒られそうだ、でもこれ必要な事)その形状から出ているからこういう音だ、と視覚と結びつけて脳内でも演出がかかる。被写体としても使えるし、見ても聴いても楽しめるって、最高でしょう。
僕のモノ選びはまず、その面構え、デザインを重視する。かっこ悪いものはどんなに性能が良くても選択肢から外す。だって、味はめちゃくちゃいいけど見た目が死ぬほど不味そうなハンバーガーとか食べたくないでしょ。音が死ぬほど良くても墓石みたいなアンプは置きたくないし。速いけどダサい車とか、。。僕は視覚の人間なので(というか人間は情報の8割を視覚から入れてる)見える空間は大事にしたい。
また職業柄かもしれないが、見た目、というか「佇まい」から中身を見抜く力はある程度持ってると思う。だから見た目から真空管に興味を持って、全く知識のない状態で数ある真空管の中から(予算の枷はあったけど)選びまくってこれにしたらWE300Bだった。案の定性能的にも大当たりの球だった。
僕にとって、ちょっと生活に面白いビジュアルと音響のアクセント与えてくれる、そんなキャラクターを持ったオーディオ機器、それが真空管アンプなのである。悪くないと思いますよ、普通にね。あと、一つだけ言っとくと真空管、もし興味があって迷ったら、300Bがいいと思う。